関東土質試験協同組合
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第10回目
「関東の地盤を知ろう!」

総務係長「土橋」

皆さん‼ 久しぶりですね。土橋です。今回は、「関東地方の土質」第10回目(「関東ローム層(下末吉ローム層)」)について紹介します。下末吉ローム層ではどんな内容がまっているのでしょうか? 皆さん!期待できますよ! では大森係長お願いします!

大森係長

大森です。今回は、関東ローム層のうち「下末吉ローム層」についての話題や物性値などを紹介させていただきますね。
 今から12万5000年前の間氷期に地球の温暖化によって現在より海水面が10m程上昇する大規模な海進が起こり、日本各地の平野部に海が進入しています。これが有名な「下末吉海進(しもすえよしかいしん)」と呼ばれるものです。この海進によって形成された「海成面」は下末吉面と呼ばれており、横浜市鶴見区下末吉地域の名前から命名されたようです。下末吉台地としては、神奈川県北東部の川崎市高津区、横浜市都筑(つづき)区、鶴見区、港北区、神奈川区などに広がる台地です。大岡川、鶴見川、帷子川(かたびらかわ)などの開析によって多数の台地に分断されていますね。図-1 には、貝塚爽平(文献1)による関東平野と東京の地形の変遷を掲載しています。


図-1 関東平野と東京の地形の変遷(文献1)

空白

つまり、下末吉台地(下末吉面)に堆積した堆積物が「下末吉ローム層」と呼ばれます。このほかに、武蔵野台地、下総台地、相模台地、大宮台地、猿島台地の他、東茨城台地、新治(にいはる)台地、筑波稲崎台地、那珂台地(下末吉ローム相当層で宝積寺ローム層と見られる)など関東平野の台地に下末吉ローム相当層を含め広範囲な分布が認められていますね。近場では、荏原台、新宿や板橋区成増などのある淀橋台、埼玉県では、所沢台や金子台などが下末吉面に相当するみたいですよ。

新入社員の関東真理子さん

表-1 関東地方のローム層の特徴と関東南部のローム層との対比(文献2)
表-1 関東地方のローム層の特徴と関東南部のローム層との対比(文献2)

羽田課長! 下末吉ローム層との対比(表-1)としては、群馬県下では、粘土質火山灰土でレキや軽石を含む「下部ローム層」が相当しているようです。また、栃木県下の宇都宮付近では宝積寺段丘の「宝積寺ローム」が相当しているようです。なんと!なんと!

土質試験課の羽田課長さん

関東さん! 下末吉ローム層には、火山灰が降下した後、陸化して堆積した陸生のローム層と浅海性中に堆積した海成のローム層があります。このうち、横浜方面で「下末吉ローム層」と呼ばれているのは、陸化して堆積したローム層です。一方、東京方面では、浅海性堆積物となったローム層で、渋谷粘土層や板橋粘土層などと呼ばれているようです。
通常、下末吉ローム層と呼ばれているローム層は、陸成堆積物と海成や湿地・沼沢地などの水底に堆積した火山灰質粘土層などを指し、台地によって名称が異なり、渋谷粘土層・板橋粘土層、常総粘土層などと呼ばれていますが、いずれも「下末吉ローム層」起源の火山灰質粘土層(凝灰質粘土層など)であると考えてよさそうですね。
 ところで、前回紹介した「等々力渓谷」は、武蔵野台地南端部の開析谷(かいせきこく)にあたりますが、武蔵野礫層の下位に「渋谷粘土層(火山灰質粘土)」(下末吉ローム相当層)が認められるようです。なお、社団法人東京都地質調査業協会の「技術ノート26」によれば、この等々力渓谷の地形・地質が紹介されていますが、下位から東京層、武蔵野礫層、関東ローム層の層序となっており、渋谷粘土層は記載されていません。したがって、武蔵野礫層の下位にある渋谷粘土層は、場合によると「東京層?」であるかもしれませんね。また、前回の武蔵野ローム層の紹介でも、貝塚爽平(文献1)の等々力渓谷付近の地質断面を紹介していますが、そこでもこの粘土層を「東京層の一部と言われているが、別の地層かもしれない」と注釈を付しています。
 下末吉ローム層については、陸成とか海成堆積物で呼び名が変わるなど色々議論があるようですね。写真-1 には等々力渓谷の露頭等を掲載しました。

写真-1 稚児大師堂から玉沢橋間の露頭と湧水(等々力渓谷)

写真-1 稚児大師堂から玉沢橋間の露頭と湧水(等々力渓谷)

写真-1 稚児大師堂から玉沢橋間の露頭と湧水(等々力渓谷)

新入社員の関東真理子さん

ところで、私、前回、犬吠埼に灯台と屛風ヶ浦の断崖などを見学に行きましたけど!断崖すごかったですよ!!なんと屛風ヶ浦にもローム層がみられましたが・・大森係長!

大森係長

おそらく「下末吉ローム層」に相当するのではないでしょうか。屛風ヶ浦は、下総台地を削る「海食崖」(銚子ジオサイト)で有名ですからね。千葉県銚子市犬岩から旭市刑部岬までの約10㎞の断崖が連続しており、下位から犬吠層群、香取層、関東ローム層の層序となっています。
下総台地表面では、下末吉ローム層が広範囲に分布していて野菜の栽培が全国で有数の生産高ですね。千葉県銚子市の地域計画2021ファイル第3章「銚子市の概要」によれば、「犬吠層群は、約500~40万年前の地層で、屛風ヶ浦ではこのうち約300~100万年前の地層をみることができる。また、香取層は約12~6万年前に古東京湾で堆積した地層(砂岩)で、下総層群の木下層(きおろし層)や常総層に対応している。」と記載がされています。
 ここで、図-2 には貝塚爽平(文献1)による関東地方における「下末吉面」の高度分布を、図-3 には関東平野の地形を示しています。
関東さん!
 下末吉ローム層の物性について何か文献がありますか? どうかな? 結構少ないと思うけど、何か見つかるといいのですが!

図-2 関東平野の下末吉面の高度分布(文献1)
1)沖積面 2)下末吉面 3)段丘(Tc面・M面) 4)山地
図-2 関東平野の下末吉面の高度分布(文献1)

図-3 関東平野の地形(文献1)

図-3 関東平野の地形(文献1)
新入社員の関東真理子さん

残念ですが、金井孝夫(文献3)以外に、下末吉ローム層に限定した物性値に関する論文等はほとんど見つけられませんでした。なお、写真-2と写真-3 には、私が撮影した屛風ヶ浦の露頭写真を掲載させていただきます。屛風ヶ浦の断崖は、サスペンス映画の撮影ポイントとしても大変有名ですね!上部のローム層の下位には、香取層(12.5万年前後)、犬吠層群(300万年前~30万年前に堆積)などが分布しているようですよ。

写真-2 屛風ヶ浦の断崖の露頭
写真-2 屛風ヶ浦の断崖の露頭

写真-3 屛風ヶ浦の断崖の下末吉ローム層近接
写真-3 屛風ヶ浦の断崖の下末吉ローム層近接
新入社員の関東真理子さん

そうそう、大森係長! 金井孝夫(文献3)では、下総・大宮台地の下末吉ローム層(チョコレート粘土、常総粘土に区分)の「土粒子の密度」や粒度試験、液性・塑性限界試験、湿潤密度、一軸圧縮強度試験、三軸圧縮試験、圧密試験などの各種土質試験を実施しています。

表-2 下末吉ローム層(常総粘土層)の力学特性(文献3から新規に作表)
表-2 下末吉ローム層(常総粘土層)の力学特性(文献3から新規に作表)

表-2には下末吉ローム層(常総粘土層)の力学特性(なお、常総粘土は第4回でも一度紹介していますが。)をまとめています。概ね、物性値は次のようです。含水比が60%前後、湿潤密度が1.65g/cm3、間隙比が1.6程度です。なお、一軸圧縮強度は120kN/m2、粘着力が66kN/m2、内部摩擦角は5°程度で、圧密降伏応力は255kN/m2程度、圧縮指数が0.5程度の値を示しています。特に、圧縮指数Ccと間隙比eとの間には次の式が提案されていますが、どうも一般の沖積土と同じような関係式みたいですけど❕
Cc=0.617e―0.308=0.6(1.03e―0.513)

大森係長

関東さん!下末吉ローム層のPS検層のデータがありましたよ。中澤努ほか(文献4)は、荏原台のボーリング孔でのPS検層で、下末吉ローム層のS波速度を求めていて、平均150m/sec 程度の速度値です。沖積粘性土の50~200m/secと同程度ですね。

★参考及び引用させていただいた主な文献・出典など

  1. 1) 貝塚爽平:「東京の自然史」,講談社学術文庫,2020年12月.
  2. 2) 日本の特殊土,土質工学会編.
  3. 3) 金井孝夫:「RI検層による下総・大宮台地の関東ローム層の層序区分およびロームの物理・工学的性質」,地質調査所月報,第23巻,第1号.
  4. 4) 中澤努・長郁夫・坂田健太郎・中里裕臣・本郷美佐緒:「東京都世田谷区、武蔵野台地の地下に分布する世田谷層及び東京層の層序、分布形態と地盤振動特性」,地質学雑誌,第12巻,第5号,2019年5月.
総務係長「土橋」

池上です! 終わりは私が担当しますので、応援お願いします!! 第10回の話題提供はいかがでしたか? 等々力渓谷、屛風が浦、など今回も話題が沢山ありましたね。さて、次回は、関東地方の土質「関東ローム層(多摩ローム層)」の話題提供となります。どんな話題が出てくるのでしょうか? おそらく狭山丘陵や生田緑地が登場するのでは?

以上

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