関東土質試験協同組合
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第7回目
「関東の地盤を知ろう!」

総務係長「土橋」

皆さん‼今月も土橋です。今回は、「関東地方の土質」第7回目(「河川周辺低地に分布する泥炭」)について紹介します。また、組合の近場にある「黒湯」温泉についての紹介もありますよ。どんな温泉なのでしょうか!楽しみにしてくださいね。

土質試験課の羽田課長さん

今回は、河川周辺低地土の話になります。大きな河川の周辺部では、繰返される河川の氾濫による堆積物(後背湿地堆積物)が厚く堆積している場合が多いと思います。
 関東さんも良く耳にすると思うけど、河川周辺低地土と言えば、泥炭や黒泥土などが知られていますよね。これらの区分は簡単に説明できますか?

新入社員の関東真理子さん

そうですね- 泥炭と腐植土との区別も十分ではないのですけど。泥炭は、「湿地や湖沼」に生えている水生植物が枯れて堆積したもので、ある程度分解し、炭化作用を受けたものを言うのではないでしょうか。つまり、石炭の一種ですか??
黒泥土についてよくわかりません!! 大森係長教えてください!!

大森係長

しょうがないな。それでは、関東さん簡単に説明するよ。
 なお、泥炭は、3種類に区分できるからね。つまり、「ミズコケ泥炭(高位泥炭土)」、「ワタスゲ泥炭・ヌマガヤ泥炭(中間泥炭土)」及び「スゲ泥炭・ヨシ泥炭・ハンノキ泥炭(低位泥炭)」に区分でき、別名「ピート」や「草炭」とも呼ばれるから。
 次に、黒泥土は、「有機質土壌で、泥炭の分解した黒泥からなる土壌で、地下水位の高い湿原地に蓄積した泥炭が、河川の運搬物などの無機質堆積物の混入及び地下水位の低下による分解作用などを受けて、植物組織がなくなるまでに細粒化した黒色腐植層の泥土」を指しているとされているよ。
 一般に、温暖な気候の下で生じる土壌で、関東地方における泥炭地については、図-1に佐藤典夫ら(文献1)による分布図を示します。佐藤ら(文献1)は、「関東地方では、低地部の河川の後背湿地から発生した河成泥炭地、または台地に刻まれた樹枝状谷の谷部に発達した湧水泥炭地であり、なかでも後者が大部分を占めている。この樹枝状谷は、常総台地の周辺部や武蔵野台地の東縁部等によく発達している。」と記載されています。

関東地方の泥炭地分布(文献1

主要河川(文献2)

図-1 関東地方の泥炭地分布(文献1)と主要河川(文献2)

なお、関東地方の1級河川は文献2(関東整備局)として図-1に併記されています。

土質試験課の羽田課長さん

関東さん! つまり、「有機物の元の形態がはっきりと認識できる部分が多いものを泥炭と呼び、元の形態がはっきりと認識できないものが多い場合を、黒泥土」と呼びます。黒泥土は、大半が水田としての利用で、千葉県印旛沼、手賀沼周辺の低地などが有名です。
 ちなみに、手賀沼沿岸では、3世紀初めの環濠集落跡である「戸張一番割遺跡」や手賀沼沿岸では最大と言われる全長69mの前方後円墳(水神山古墳:すいじんやま古墳)が有名ですよ!! 写真-1には、我孫子市教育委員会(文献3)による水神山古墳の近景と、図-2 には、東京大学文学部考古学研究室編集の古墳測量図(文献3)を掲示しています。この周辺には沢山の古墳が点在していて、考古学上は大変貴重な地域と言えますね。
 皆さん方も一度見学に行かれたらいかがでしょうか!!

写真-1 水神山古墳の近景(我孫子市教育委員会)
写真-1 水神山古墳の近景(我孫子市教育委員会)

図-2古墳測量図(同左)
図-2古墳測量図(同左)
大森係長

羽田課長!! 古墳群の話は驚きですね。古墳群と言えば、関東では、埼玉県行田市にある5世紀後半~7世紀初頭のさきたま古墳群(前方後円墳8基と円墳1基の大型古墳群)が良く知られていますけど。なんと!「埼玉古墳群―古代東アジア古墳文化の終着点―」として「世界遺産への登録」を推進しているそうですよ。ちなみに、埼玉県では、大宮台地の中にある「芝川」の低地は、「見沼泥炭地(見沼たんぼ)」と呼ばれる広い泥炭地として有名ですよ。
 それでは、関東さん! 「低地土」の定義は? 簡単に言えば、「低地土は、主に河川周辺に分布し、河川の氾濫で堆積した土砂等であり、土壌養分が豊富で肥沃な土壌」と言うではいかがでしょうか? 低地土の中には、黒泥土や「グライ低地土」などが分類されると思いますが。

新入社員の関東真理子さん

羽田課長!! また、わからない用語があります? グライ・・・ってなんですか?

土質試験課の羽田課長さん

そうか。関東さんには初めて聞く言葉か―。「グライ層」とは、ほぼ一年中地下水で満たされることで、還元状態となっていて、二価鉄(Fe2+)が生成され、色調が青灰色ないし緑灰色をなす土層の事だよ。グライ低地土は、一般的に地下水が高く、排水不良な土壌でほとんど水田として利用されていますよ。東京湾岸、利根川低地、九十九里などに分布していますね。

大森係長

 関東さん!泥炭地盤と言えば、北海道や東北地方が有名だね。特に、「泥炭性軟弱地盤」の土木工学上の多くの問題として、国立研究開発法人 土木研究所 寒地土木研究所が多くの実績を有しており、「泥炭性軟弱地盤対策工マニュアル」(文献4)を取りまとめています。すなわち、実務的な研究成果を体系化し、「泥炭性軟弱地盤上に土構造物を建設・維持管理する際に必要となる標準的な調査・設計・施工の考え方」を取りまとめた「技術基準書」を公開しています。
 関東さん!! 泥炭性の地盤における土木工学上の問題点としてはどんなことが考えられますか?? おっとその前に!
 まず、泥炭地盤の工学的な性質としては、例えば、文献4における石狩泥炭の物性をみると、含水比は115%~1,150%、間隙比eは5~19、土粒子の密度Gsは1.3~2.1、湿潤単位体積質量γtは9.5~11.2kN/m3、圧縮指数Ccは2.6~5.3、コーン支持力qcが100~300kN/m2などの値を有していて、通常の軟弱土に比べ、間隙比が高く、密度が小さく圧縮性が大きい特徴があります。
 また、日本の特殊土(文献5)によれば、関東地方(茨城、千葉、神奈川)の泥炭では、大まかにみると、含水比が160~890%、間隙比eが3~13.2程度、土粒子の密度Gsが1.55~2.6程度、圧縮指数Ccが1~13程度、一軸圧縮強度quが14.7kN/m2~49kN/m2程度、さらに、コーン支持力qcが49kN/m2~490kN/m2程度の値を有しているようですね。泥炭も地域によって一律ではないことがわかりますね。
 したがって、このような泥炭性地盤では、「❶沈下特性としては、沈下量が大きく、長期にわたって沈下事象が収束しにくい(二次圧密領域を考慮)、❷支持力特性としては、せん断強さが小さく、盛土のすべり破壊が懸念される、特に盛土底部の液状化が懸念される」などが重要な課題となると言われています。

新入社員の関東真理子さん

大森係長! 特に、圧密沈下問題は難しそうですね。泥炭地盤では、一般的な「沈下予測法」や強度算定法では対応できないみたい!! 新たな調査法や設計手法(FEMによる沈下・変形解析)が重要となるのですね? 施工法も特化した工法が求められそう!!

土質試験課の羽田課長さん

関東さん! その通りですよ。「泥炭性軟弱地盤対策工マニュアル」では、泥炭の特殊性を考慮した調査・設計・対策工についての技術基準をまとめています。調査・設計編では、ピートサンプリング、電気式静的コーン貫入試験(CPT)やダイラトメータ試験(DMT)、動的変形特性を求めるための繰返し試験など泥炭地盤に有効な調査法を採用しています。例えば、解析にあたっては、圧密・せん断を考慮できるモデルを使用する(水・土連成FEM)ことや、泥炭性軟弱地盤の解析に有効なモデルとしては、「カムクレイモデル(弾塑性モデル)や関口太田モデル(粘弾性モデル)」などが有効だそうですね。施工面では、千葉俊文ら(文献6)では、泥炭性軟弱地盤における「真空圧密ドレーン工法」について、北海道千歳川遊水地周囲堤の地盤改良において真空圧密ドレーン工法を採用して有効性を確認しているようです。真空圧密ドレーン工法は、地盤に鉛直ドレーン材を介して「負圧」を作用させ、その圧力差を圧密圧力として地盤を改良していく工法のことです。つまり、「負圧」を採用していることから、せん断破壊が生じにくい工法であるとされています。なお、この工法は、前述した対策工マニュアルにも設計・施工上の留意点を提示しているようです。この他には、プラスチックボードドレーン工法(PVD)の適用性と設計法や深層/中層混合処理の強度管理法などが挙げられています。
 さらに、新しい泥炭性軟弱地盤対策工の開発として、「グラベルセメントコンパクションパイル(GCCP)工法」が取り上げられています。この工法は、「砕石とセメントスラリー」を材料として使用し、サンドコンパクションパイル工法の施工機械で締固めて改良パイルを造成する方法だそうです。特徴としては、原位置土との混合がないため、「高強度(qu≧2MN/m)で安定した品質の改良パイルが造成できるとされています。

新入社員の関東真理子さん

羽田課長!!それに大森係長! 難しすぎてさっぱりです。ここらで、気分転換しませんか!! 皆さんわが組合の周囲(大田区と品川区)では、「黒湯(モール泉)」の天然温泉が多いことを知っていますか??? 蒲田温泉(大田区蒲田本町)や黒湯天然温泉ヌーランドさがみ湯」(大田区仲六郷)、照の湯(大田区仲六郷)、SPA&HOTEL和-なごみ(大田区蒲田)、天神湯(品川区北品川)など沢山の黒湯がありますよー。この天神湯は、「美肌の湯」として、テレビ朝日系「たけしの健康エンターテインメントみんなの家庭の医学」で紹介されたそうです!! 地下100mからくみ上げた黒湯で、「ナトリウム炭酸水素塩冷鉱泉」だそうですよ。土橋さん「美肌の湯ですよ!!」「美肌の湯!!」
 「日本文化の入り口マガジン和楽Web」(文献7)から、「黒湯」の湯殿を写真-2に掲示しています。土橋さん!!早く「美肌の湯」に出かけましょう――――

写真-2 黒湯の例(文献7より)
写真-2 黒湯の例(文献7より)

大森係長

関東さん! この「黒湯」は、なぜ温度が低いのかわかります? 火山性起源の温泉なら25°以上はあるはずです。地表から浅い井戸ならおそらく、17~19°付近で温泉法に規定されている温泉ではなく、「鉱泉」に分類されるはずです。甘露寺泰雄(文献8)によれば、「神奈川県の地下温泉温度(東京駅付近から箱根火山西麓)」の深度と地下温泉温度のグラフが掲載されており、東京・多摩川付近の表層部で、20℃程度、深度1,000mで50℃程度の温泉温度を示しています。したがって、深度1,000m辺りなら40℃程度で温泉(25℃以上で温泉)に該当すると思いますけれど。多分、海水起源(化石海水)ではないのかな? 大田区や品川区の地下には、下総層群や上総層群が分布しています。
 同じく、文献8には、東京都平野部の大深度掘削井の模式断面が掲載されており、深度が1,000m付近なら上総層群に相当するようです。上総層群は、海成堆積物からなる地層ですので、地層中に化石海水を包含していると考えられます。

新入社員の関東真理子さん

へーえ。そうなんですか。今回も話題が色々あって大変勉強になりました。でも、私は、何と言っても、「美肌の湯!美肌の湯!」です!!

★参考及び引用させていただいた主な文献など

  1. 1) 佐藤典夫・沓沢貞雄:「講座:農業土木と軟弱地盤対策(その11)」,農業土木学会誌,第63巻,第7号,1995.
  2. 2) 「関東の1級河川」:関東整備局,国土交通省ホームページ.
  3. 3) 「あびこ電脳考古博物館資料」:我孫子教育委員会.
  4. 4) 「泥炭性軟弱地盤対策工マニュアル」:国立研究開発法人 土木研究所 寒地土木研究所,平成23年3月.
  5. 5) 日本の特殊土:土質基礎ライブラリー,旧土質工学会編.
  6. 6)千葉俊文・佐々木努・石谷隆始:「泥炭性軟弱地盤における真空圧密ドレーン工法について」,平成26年.
  7. 7)「日本文化の入り口マガジン和楽Web」.
  8. 8)甘露寺泰雄:「温泉(深井戸)ボーリングデータ公開の課題」,地質ニュース,667号,2010年3月.
総務係長「土橋」

土橋です。第7回の話題提供はいかがでしたか? 今回も話題が沢山でしたね。私は、組合の近場に「黒湯温泉」があるって今の今まで知りませんでした。びっくりです。皆様、是非お風呂に入りにきて下さいね。さて、次回第8回は、関東地方の土質「関東ローム層(立川ローム層)」についての話題提供となります。

以上

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